「あびばのんのん」オフィシャルインタビュー【小原綾斗(Vo./Gt.)】

Tempalayのニューシングル「あびばのんのん」は、今年3月にリリースした4thアルバム『ゴーストアルバム』とそのツアーを経て、必要な過渡期の中で生まれた1曲といっていいかもしれない。テレビ東京系のドラマ25「サ道2021」のエンディングテーマというお題がありつつ、Tempalay特有のサイケデリアをまとったサウンドスケープと儚く切ない歌の妙趣=そこはかとなく漂う郷愁に彩られた音楽像が、サウナ用語で言うところの"ととのう"感覚と不可思議な様相で共振している。1曲目に収録されたカップリングの「とん」の不穏な快楽性に富んだファンクネスしかり、藤本夏樹とAAAMYYYが手がけた極めてドープなM3「甘蕉」しかり、やはりこのバンドは普通じゃない求心力をたたえていると思う。シングルだからこそ、とりとめのない現在地をパッケージできるという軽やかさも、ある。フロントマン、小原綾斗のこのインタビューはともすればネガティブに感じる人もいるかもしれないが、バンドという生き物のリアルを感じてもらえるとも思う。そう、Tempalayは一筋縄ではいかないから特別なのだ。(文:三宅正一)


  

  

──まずは、5月に『ゴーストアルバム』のリリースツアーを終えて、あのアルバムをライブで体現した実感から聞きたいんですけど。どうですか?
 
なんだろうな……正直、今の自分の中では『ゴーストアルバム』は血が通ってない感じがするんですよね。コロナもそうだし、制作した時期の状況の影響があるかもしれないですけど、「なんか肩に力が入ってるな、このアルバム重たいな」みたいな(苦笑)。今現在の自分の心境に合ってないだけなのもかもしれないですけどね。やっぱりコンセプチュアルだったりメッセージ性を帯びたアルバムって自分の中で消化するのが難しいなと思って。だから、今はバンドから一歩引いたところで音楽に対して自分が抱く価値観を再確認しようとしてますね。

 

 

──それはどのようにして?
 
遊びで曲を作ったりとか。別のジャンルの人と接点を持ったりとか。なんていうんですかね?ちょっとTempalayという状況に甘えてたなと思って。

 

 

─自分自身が?
 
はい。状況に甘えて自分が苦しくなるのも本末転倒じゃないですか。だから、Tempalayを守っていくためにも一歩引かなあかん時期やなと思っていて。

 

 

──『ゴーストアルバム』の制作中も外側にいる人たちが作り上げたTempalayのパブリックイメージにどこか迎合している自分を感じて、それは違うとなって軌道修正したと言ってましたよね。結果的に『ゴーストアルバム』はTempalayの独立した音楽像をあらためて際立たせ、バンドを新しいフェイズに押し上げるアルバムになったと思うんですけど。そのうえで今も腑に落ちない感覚があるということ?
 
う〜ん、シンプルにワクワクしないなという感じがあって。捨てる作業がまだまだできてなかったんだなと思うんですよね。

 

 

──捨てる作業というのは?
 
バンドの外側で起きてることとか、自分の置かれてる立場とか、人からの期待とか──それはありがたいことでもあるんですけどね。でも、考え方によってはノイズにもなりかねないじゃないですか。

 

 

──純一無雑に音楽表現をするうえで。
 
そういう意味では自分は音楽業界のスピード感にむいてないんですよ(笑)。でも、周りの大人の方たちには恵まれているので。そこは折り合いをつけてもらいながら。でも、どこかでがんばっちゃうんですよね。楽しくてバンドを始めたのに、どこかでがんばっちゃう。

 

──期待には応えたいと生理的に思うだろうし。
 
だからがんばらない方法を探したい、みたいな感じですかね。その危険信号を察知するのはおそらく人よりも早いと思うので、いっぱいいっぱいになってるわけではないんです。いっぱいいっぱいになる前に一回自分を「ちょっと待って」って引き戻してる感じなんやと思います。『ゴーストアルバム』も来年あたりに聴いたらまた違う感覚を味わせるかもしれないし。

 

 

──でも、今の綾斗くんの混沌とした状況と『ゴーストアルバム』の様相を照らし合わせると、それはそれでリアルだなと思いますけどね。
 
ああ、なるほど。たしかにそうかもしれない。

  

 

──生きてるのか死んでるのか、此岸と彼岸を行き来しているみたいな。
 
今思うとあのアルバムは生きてるのか死んでるのかわからんというよりは、死んでるんですよね。逆に言えば生きたいと思ってるアルバムなのかもしれない。「生き方ってどうやったっけ?」みたいな(笑)。

 

 

──こんなにも引き裂かれた世の中の空気の中では「生き方ってどうやったっけ?」というのもまためちゃくちゃリアルな感覚だと思うけどね。
 
今の世の中に物申してる人たちの内容に脈絡がなかったり、代案がないまま発信してる人たちを見て辟易した部分もあって。それで中立的な考え方になっちゃったんですよね。でも、創作するためには不満とかハングリーな部分も必要だったりして。性欲とかもそう。そういうところが今、すごくフラットになっちゃってるんですよね。三宅さんってこの世の中に不満とかあります?

 

 

──不満は数えきれないほどあるけど、一つものすごく怖いと思うのは、この国の中央の人たちのやり方って、思考を止めたり、虚無感を与えるのが本当に得意だなと思っていて。
 
得意って言い方はおもしろいっすね(苦笑)。最近、命より価値のあるものを探すために生きてる感じがあって。べつに死にたくないですよ?(笑)。死にたくないですけど、自分の命がなくなってもいいくらい燃えられるものって、何ものも凌駕するじゃないですか。たとえそれがものづくりじゃなくて誰かのためでもいいですけど、命を賭けて生きられる人になりたいと思うんですよね。全然、新曲の話をしてないですけど(笑)。

 

  

──いや、ここからします(笑)。「あびばのんのん」はドラマ「サ道2021」のエンディング曲で、サウナで体感するトリップ感やサイケな感覚とTempalayの音楽性が不可思議な融和を果たしてる曲なんですけど、その実、めちゃくちゃ切ない曲ですよね。
 
なんか切ないですよね。

 

 

──発端としてはドラマのタイアップありきで生まれた曲なんですよね?

そうですね。ツアー中に作った感じですね。正直、考え込んで作らなかったのでそれが自分の状態としてもよかったなと思います。まずドラマの話があって、夏のお祭りの歌にしようと思ったんですね。あたりがキラキラしていて、いろんな音が鳴っていて。そこに色恋沙汰があったり、花火を見て感動したり。そういう逃避感とサウナに入ったときの感覚をリンクさせるみたいな。アルバムみたいに全体のバランスとかを考えなくていいので、シングルって楽しいなと思いました。ちょっと話は逸れますけど、地元に帰ったときに知り合いのツテで行ったお店で、東京で映画監督してる人に会って。

 

 

──高知で?

そう。その人は60歳くらいでDJやモデルもやっていて。ピロピロさん(大木裕之)っていう人なんですけど。ピロピロさんはゲイポルノ映画を30年くらい撮ってる人で。かつては役者やモデルとしても有名だったらしいんですけど、それを全部切り捨ててきたらしいんですよ。「盛り上がったらもういらない」みたいな。要は背負うと楽しくなくなるということだと思うんですけど。「なんで高知にいるんですか?」って訊いたら、「いや、楽しいから」みたいな。「飽きたら東京に帰るし」って。なんだかんだずっと高知に居座ってるらしいんですけど(笑)、そういうところも面白いなって。自分も前はもっとシンプルな感覚とか考え方を持っていたし、それを取り戻したいなと思って。めっちゃ大げさに言うと、「あびばのんのん」がそのきっかけになるかなと思える曲の作り方ができたなというのはありますね。

 

 

──1曲目の「とん」は? この曲は『ゴーストアルバム』の延長線上にあるような趣があるなと。

そうっすか? 本当に軽いノリで作って。二日酔いのThe Metersみたいな感じが最初のコンセプトとしてあったんですけど。

 

 

──酩酊のニューオリンズファンクみたいな。
 
そうっすね。花沢健吾の『アンダーニンジャ』っていう漫画があって。その主人公の雲隠九郎というやつを題材にしました。

 

 

──忍者好きだね(笑)。
 
忍者好きっすね。『アンダーニンジャ』がめちゃくちゃ面白くて。雲隠九郎って全然金がなくて、人の家に忍び込んで生活してるんですけど、めちゃくちゃ体たらくで人に付け入るのが上手いんですよ。でも、本当はめちゃめちゃ強いっていう。そういうのが好きなんですよね。なめてかかったらヤバいやつだったみたいな。映画の『ノーカントリー』とかもそういう怖さがあるじゃないですか。

 

 

──ナードなやつかと思ったらめっちゃ怖いやつだったみたいなね。
 
そうそう。本当は手を出しちゃいけないやつだったっていう。そういうダークヒーローみたいなのが好きですね。ある種、これはめっちゃナードな歌ですね。

 

 

──この曲も怖いもんね。グルーヴィーに不穏というか、土着的な魑魅魍魎の気配がするというか。歌の主人公像も怖いし。
 
怖いっすよね。「とん」というのは、その漫画に出てくる究極の兵器なんですね。宇宙にある衛星みたいな兵器で、レーザーが相手に向かって落ちるんですよ(笑)。

 

 

──3曲目の「甘蕉」は作詞がAAAMYYY、作曲が夏樹くんとAAAMYYYの共作という布陣で、めっちゃドープな曲になってる。ちょっとBrainfeeder周辺を彷彿させるようなムードもあるなと。
 
これは完全に二人に任せました。夏樹がトラックを作って、AAAMYYYがメロディを付けて。二人が気持ちよければそれでいいなと。

 

 

──ちなみに現在進行系で曲は作ってるんですか?
 

今はお遊びで自分のための曲を作ってますね。『小原綾斗とフランチャイズオーナー』というバンドを組みまして。そのバンドで「shima fes(SETOUCHI 2021)」に出るんですけど。PERIMEETRONの佐々木集がベースで、(高木)祥太がドラムを叩くんですよ(笑)。

  

 

──祥太くんがベースじゃなくてドラムなんだ(笑)。
 
そう。

 

  

──なるほどね(笑)。でも、こういうタイミングでこういうシングルが作れてよかったよね。
 
そう思いますね。考え込まずに作ったけど、手応えはあるので。いいタイミングで(セールス的に)ドーン!といってくれればTempalayとしてもやりたいことがもっと増えていくんだろうなと。やっぱり状況と環境とモチベーションって比例すると思うので。

 

 

──でも、やりたいことってカウンターであり続けることでもあるでしょ?
 
そうなんですよ。だからこそ、めちゃくちゃデカい規模の面白いことをやりたくて。現状はそこまでいけてないので。まぁそれは言い訳になりますけど。でも、『ゴーストアルバム』も時間が経過することで聴こえ方が変化していくのが面白いと思うから。作品がお店で展開されるタームって長くて3ヶ月周期だと思うんですけど、それを引き伸ばしたいという気持ちがあって。そのためのアプローチをちょっと考えてます。アルバムを忘れさせないことをしてみたいなって。

 

 

──すごくいいと思う。
 
作品が消費されていくのはイヤだし、自分が生んだものはやっぱり愛してるんで。